鼻梁を横切る大きな傷跡をうごめかして、サディスティックに笑った。

「可愛がってやったのにさ」

 この人は自分が両刀使いだと告白しているのだろうか、と秀幸は思った。

「俺が現役だったころにさ、慕ってくれた後輩がいて、卒業してからもいろいろ面倒みてやったんだよね。でもそいつは俺が顔がきくって知ったら、消費者金融から金引き出して遊びまくりやがって。いざ追い立てくらったら、泣きついてきやがった。……こいつはゲス。俺を利用してただけのゲスなんだよ。そういうやつには、俺もちゃんとゲスとしての対応してやるの」

 喉を鳴らして笑う。足を組みなおして斜に構えたまま、秀幸に顔を近づけた。

「で、小野寺ちゃんさ、どうすんの。お前のとこに来てる法学部、あれはモノホンの上玉だよ。お前いつまで逃げまわるつもりなの?」

 声をひそめる。

 秀幸は目を見開いた。

「か、茅野を知ってるんすか」

 曽我はまた面白そうにくくっと笑った。

「ああーこりゃ、ほんとに知らないんだな」
「なんのことですか」

 曽我の態度がだんだん不愉快になってきて、問いただすような口調になっていた。

「かやのくんていうの? 育ちの良さそうな世間知らずの純粋くんだよね。あの子、お前がいない時たまに寮に来てるの、知らない?」
「え?」
「でかいリュックしょって、玄関でうろうろしてんだよね。で、なにか用ですかって誰かが声かけると、『突然休講になったんで来てみたんですけど、小野寺くんいますか』ってきくんだよね。で、居ないよっていうと、『それじゃ、いいんです』って。『負担になりたくないから、僕がここに来たことは黙っててください。お願いします』って、一生懸命口止めして帰るらしいよ。けなげだよね」