ああ、こいつらの目も節穴じゃないんだな、と秀幸は感慨深く思った。

 自分たちの実力を本当は理解している。そして、個人の成功よりも全体を優先させ、その中でわかちあう喜びをよく知っている。秀幸が説教するまでもなく、ちゃんと彼らはチームを支える選手に育っている。

(お前はいつか俺に追いつくだろう。でも俺の膝はそれを待っていてはくれないみたいだ)

 弱気な言葉を口には出せず、黙って空いている洗面台に向かう。いつもどおりの動作で備え付けのガラスのコップを手にとって水をくみ、口元に持っていった。

 ぱちん、と手の中で何かがはじける感触があって、次の瞬間、秀幸のTシャツの前はびっしょり濡れていた。同時にコップを握っていた右の手の平に鋭い痛みが走る。ぱた、ぱた、とステンレスのシンクに血がしたたった。

「なにやってんの、小野寺」

 隣にいた三年の一人が驚いてあとずさった。

「こいつ、コップ握りつぶした」
「嘘だろ」
「どうなってんだよ、ラグビー部は」

 ざわざわしはじめる。

「小野寺さん、顎のとこ、血が出てます」

 あわてて津和野も走り寄ってきた。秀幸はぼう然としたまま、右手に残った破片をシンクに落とした。タオルで右手と顎を拭くと、タオルがまだらに血に染まる。