二人で部屋を出て、共同の洗面所に歩いていく。

「あれっすよね。ヘルスじゃなくてソープっすよね。本番していいほうですよねっ」

 津和野は目をきらきら、というよりぎらぎら輝かせて、朝の清らかな空気にふさわしくない言葉を大声で連呼している。

 げんきんな態度に秀幸は苦笑した。

「お前な、ちゃんときいてたか? トライ決定率八十五パーセントキープできたらだぞ。ま、津和野がそこまで育てば、俺は安心してベンチにさがれるな」

 洗面道具を抱えたまま、津和野は急に立ち止まった。お腹が痛くなった子供みたいな顔をしている。

「小野寺さん……んな、さびしいこと言わんといてくださいよ」

 こぼした言葉には関西独特のなまりが混じっていた。

 津和野の実家は兵庫だ。小学生を卒業して千葉の中高一貫私立校にスポーツ推薦で入学した。そのときから実家を離れて寮生活だった。きっと周囲にからかわれないよう関西弁は封印してしまったのだろう。普段は違和感のない東京弁をしゃべる。それが、まれに、ひどく感情的になると隠しきれないなまりが混じるのだ。

「俺……俺、小野寺さんが目標なんで。もっと俺のずっと先を走っててくださいよ」

 秀幸はふりかえった。津和野は心細そうな顔をして見上げている。

「津和野、お前十四番のジャージ背負って公式戦出たくねえのか?」

「そりゃ……俺ら二年生は、集まりゃ『俺たちの代になったらどんなラグビーやるか』って、そんな話しかしませんけど。それは俺らが三年、四年になった時の話をしてるんすよ。それまでは、上の人たちに強い修教守っててほしいっす」