もう寮の門柱に明かりが灯りだした薄闇を、さらさらした綺麗な髪がゆるやかに遠ざかっていくのを見ていた。
上空では、オレンジ色の残照が、ちぎれてとぶ雲の下のほうを暖色に照らし、反対に上部分は薄ねず色に陰らせていた。夜と昼の境目にある美しいグラデーションの中を、茅野は一人歩いていった。
茅野が角を曲がるところまで目で見送って、くるりと寮の入り口に向きを変えると、そこに野球部の南条の姿があった。
練習帰りらしい。汚れたユニフォームのまま、まるで秀幸が戻るのを待っていたように、入り口の柱によりかかって立っていた。
「お疲れ様です」
いつもどおり頭を下げると、南条が、むう、と息を吐いた。太い眉を寄せ、重々しく口を開く。
「小野寺、オフの日まで余計なことは言いたくないんだが、さっきの法学部の美人、ここでは絶対に一人で便所に行かすなよ」
「茅野のことですか? 美人って……あいつ男ですよ」
「だから余計にややこしい」
南条は厳しい顔になってうつむいた。
「ウチの部もお前んとこも、まともに彼女いる奴なんてほとんどいねえだろ。みんな部活一筋でそれどころじゃねえもんな。でも、人間はそんな強くねえしなあ。それがあんな、お人形みたいな綺麗な顔していい匂いさせて、腕にもすねにも剛毛一本生えてないようなのがこのへんフラフラしてっからさ。そのうち間違いがおこるんじゃねえかって、俺は気が気じゃねえよ。むちゃなことやらかしても相手が男なら妊娠もしないし、簡単には訴えられない、なんて本気で信じてるバカもこの寮にはいそうだしな」
上空では、オレンジ色の残照が、ちぎれてとぶ雲の下のほうを暖色に照らし、反対に上部分は薄ねず色に陰らせていた。夜と昼の境目にある美しいグラデーションの中を、茅野は一人歩いていった。
茅野が角を曲がるところまで目で見送って、くるりと寮の入り口に向きを変えると、そこに野球部の南条の姿があった。
練習帰りらしい。汚れたユニフォームのまま、まるで秀幸が戻るのを待っていたように、入り口の柱によりかかって立っていた。
「お疲れ様です」
いつもどおり頭を下げると、南条が、むう、と息を吐いた。太い眉を寄せ、重々しく口を開く。
「小野寺、オフの日まで余計なことは言いたくないんだが、さっきの法学部の美人、ここでは絶対に一人で便所に行かすなよ」
「茅野のことですか? 美人って……あいつ男ですよ」
「だから余計にややこしい」
南条は厳しい顔になってうつむいた。
「ウチの部もお前んとこも、まともに彼女いる奴なんてほとんどいねえだろ。みんな部活一筋でそれどころじゃねえもんな。でも、人間はそんな強くねえしなあ。それがあんな、お人形みたいな綺麗な顔していい匂いさせて、腕にもすねにも剛毛一本生えてないようなのがこのへんフラフラしてっからさ。そのうち間違いがおこるんじゃねえかって、俺は気が気じゃねえよ。むちゃなことやらかしても相手が男なら妊娠もしないし、簡単には訴えられない、なんて本気で信じてるバカもこの寮にはいそうだしな」

