たとえなにかを失ったとしても。

 雛鳥を惜しんで鳴く親鳥のように。

 この愛を、伝えなければ――

 秀幸の声をきくと、急に茅野の体から力が抜けた。

 あわててきつく抱きとめる。

 茅野の顔は安心しきっていて、もう眠くてたまらないようにとろんとしていた。

     ※   ※   ※

 ぽり、さく、と津和野がスナック菓子を噛む音がする。さっきから物音を立てないように遠慮しているのだ。秀幸は苦笑した。

「そこまで茅野に気をつかわなくていいよ」
「いや、でもこの人、小野寺さんの大切な人っすよね」

 目だけで二段ベッドの上段を見る。今そこに横たわっている青年を。

「恥ずかしい言い方すんな」
「この人きっとなんか事情があるんだなあって、この前から思うんすよ」

 津和野の顔は、いつもの彼らしくなく考えこんでいるようだった。秀幸は椅子から立ちあがって、津和野の座っているところへ歩み寄る。

「津和野さー。そういうちっさな破片がぼろぼろこぼれそうなお菓子食べるとき、まわりにこぼさない食べ方って知ってるか?」

 秀幸がそう言うと、津和野はあわててティッシュをとって、フローリングの床をこすりはじめた。