「……やらないほうが残酷なんだって兄さんが言った。お前は軟弱ないくじなしだって。父さんと母さんが甘やかしたから、こんな自分勝手な偽善者に育ったんだって。優しいふりしてずるい奴だ。人の顔色ばっかり見て卑しいって。兄さんが大きな声で罵るんだ」
茅野がうつむいて頭を振る。こんな僕に優しくしないで、と訴えるようだ。
「僕は……それでもできなかったんだ。暑くて。夏の夕立のあと、蒸されるような熱気に包まれていて。頭の上で二羽の親ツバメがぐるぐる飛んで、狂ったように鳴くんだ。目の前のひな鳥は、濡れたアスファルトの上で巣の残骸にドロドロに汚れて。もう立ち上がることもできないほど弱っていて……。苦しいだろうなって。ゆっくり死んでいくのは怖いだろうなって。それは僕にも痛いほどわかるんだけど。それでも殺すことが出来なかった。胸が痛くて、息苦しくて、そのうちぐにゃぐにゃ世界がねじ曲がって……それで、そのまま僕は気絶しちゃったんだ」
茅野は両手で頭をかかえ、まっすぐの髪をくしゃくしゃ混ぜた。
「僕は……ずるいのかな? あのひな鳥を殺せなかった僕は……ダメな人間かな?」
「茅野は正しいよ」
苦悩する耳元に優しくいいきかせる。
「本当?」
「殺さなくていいんだ。生き物がいずれ死ぬことはもう決まってるんだから。『どうせ死ぬ』なんて言い出したら、全てが無駄ってことになっちまう。そんなの、やってらんないだろ」
「でも……」
「苦しくてもいいんだ。上空を飛ぶ親鳥が、最後まで自分たちを必死で呼んでいてくれたことを知って死んでいける。愛されたことを知って死んでいける。とおりすがりの人間の子供が、その命を憐れんでやったことも」
茅野がうつむいて頭を振る。こんな僕に優しくしないで、と訴えるようだ。
「僕は……それでもできなかったんだ。暑くて。夏の夕立のあと、蒸されるような熱気に包まれていて。頭の上で二羽の親ツバメがぐるぐる飛んで、狂ったように鳴くんだ。目の前のひな鳥は、濡れたアスファルトの上で巣の残骸にドロドロに汚れて。もう立ち上がることもできないほど弱っていて……。苦しいだろうなって。ゆっくり死んでいくのは怖いだろうなって。それは僕にも痛いほどわかるんだけど。それでも殺すことが出来なかった。胸が痛くて、息苦しくて、そのうちぐにゃぐにゃ世界がねじ曲がって……それで、そのまま僕は気絶しちゃったんだ」
茅野は両手で頭をかかえ、まっすぐの髪をくしゃくしゃ混ぜた。
「僕は……ずるいのかな? あのひな鳥を殺せなかった僕は……ダメな人間かな?」
「茅野は正しいよ」
苦悩する耳元に優しくいいきかせる。
「本当?」
「殺さなくていいんだ。生き物がいずれ死ぬことはもう決まってるんだから。『どうせ死ぬ』なんて言い出したら、全てが無駄ってことになっちまう。そんなの、やってらんないだろ」
「でも……」
「苦しくてもいいんだ。上空を飛ぶ親鳥が、最後まで自分たちを必死で呼んでいてくれたことを知って死んでいける。愛されたことを知って死んでいける。とおりすがりの人間の子供が、その命を憐れんでやったことも」

