「どうした?」

 顔色が悪い。呼吸が浅い。

「ごめん……なさい。ごめ」

 ほろり、と涙がひとしずく落ちた。一つ落ちたあとは、絶え間なくはらはら落ちた。

 秀幸はとりあえず茅野を少し先にあったベンチに座らせた。呼吸が乱れて苦しそうだった。落ち着くまで、しばらく自分に寄りかからせ、背中をなでてやった。

 茅野はやがて、震える声で話し出した。

「ごめんね。思い出しちゃったんだ。……昔、ひどい夕立のあと、ツバメの巣がおっこちてたことがあって。さっきみたいにひな鳥たちが地面に落ちてて、空では親鳥がいっぱい鳴いてた。……兄さんと僕で歩いてたんだ。兄さんが、その時はもう高校生だったけど、小学生の僕に言うんだ。『踏みつぶせ』って」

 そこでたまらないように、茅野はすすりあげた。

「そのひな鳥はさっきのメジロよりずっと小さくて羽も全然生えてなくて、すごく弱ってた。『もう助からないから、これ以上は苦しむだけだ。お前が早く楽にしてやれ』って」

 秀幸は眉をひそめた。子供はときとして残酷だ。どぎつい度胸試しのつもりだったのだろうか。年の離れた兄は、小学生の茅野になんてことを命令するのだろう。

「でも……弱ったひな鳥は、やっと聞き取れるくらいのちっさい声でヒーヒー鳴いてるんだ。空で親鳥が半狂乱みたいに鳴くと、答えるように、ヒー……ヒー……って一生懸命鳴くんだ」

 茅野の頬に新しい涙がこぼれた。秀幸はいつのまにかそれを指先ですくってやっていた。こんなゲイカップルよろしくのことはしないつもりだったのに、目を真っ赤にした茅野の泣き顔を見るとそうせずにはいられないのだ。