顔をほのかに赤く染め、まるで恥ずかしさを誤魔化すように、溶けかかったクマの顔をざっくりすくいとって口に運ぶ。

 こんなとき、テーブルの下で手でも握ればいいのだろうか。

 人目を忍んでひそやかにキスでもできれば、何かが変わるのだろうか。

 そんなことを考えながら、秀幸はクリームのついたさくらんぼのような茅野の唇をみつめていた。

     ※   ※   ※

「うわー、すっごいお腹いっぱいだ。これって元とれたのかな」

 店を出て、いつものとおりグラウンドまでの道を歩いていた。駅前の繁華街から裏道に入り、高速道路の高架下に作られた緑道を歩いた。

 スプレーの落書きが残るコンクリートの巨大な柱の脇を通り、高架がつくる日陰を歩く。

 排気ガスに灰色に染め上げられた防護壁に車の通過音が響いている。

 やがて道路が出口に向かって大きくカーブを描いているところに出た。上空には、ラブホテルの電飾看板が高々と掲げられている。

 緑道には、ところどころベンチや動物の形をした遊具も置いてあったが、場所柄、子供連れの姿は見えない。

 秘密基地でも作るのにうってつけの場所を、リュックを背負ったベージュのセーターが楽しそうに歩いていた。ツツジの植え込みのあいまに自生したススキの穂とアワダチソウの黄色い花が微風にふわふわ揺れて彼のまわりをいろどっている。