「あ、ネズミか」
「クマさんだよっ」

 ちょっとふくれたあと、声をたてて笑った。こんなささいなことがひどく面白いようだ。くったくなく笑う。

「お前、溶けるぞ。そんなことしてると」

 スプーンを持っていつまでも笑っている茅野に、秀幸もつられていつも無愛想な顔をゆるませた。

「この前、コンビニでこういうスイーツ見たんだ。その時、秀幸にも見せたいなあ、って考えたんだよ」

 笑顔で話していた茅野が、突如はっと顔をこわばらせた。何か思い出したようにようだった。全身が緊張でかたまっているのがわかる。

「あ……あの、ごめんね。食べ物で遊ぶなんて、僕、行儀悪いことして……」

 両手を口の前で重ね、おそるおそる秀幸のほうを上目づかいに見る。

「いや、俺はそういうお行儀はよくしらねーし」
「そう?」
「行儀とかより、茅野がさっきみたいな顔してるほうがいいな」
「さっきみたいな顔って?」

 とまどった顔で秀幸を見る。

 秀幸はまた、ふっと目を細めた。

「フツーの顔して笑ってた」

 一瞬、茅野は秀幸の笑顔に見とれたようだった。

「僕っ……僕は、小野寺と一緒にいるときだけ、自分がちゃんと生きてる気がするんだ」