長谷川は、監督を始めとするコーチングスタッフの極秘会議に、学生で出席できる唯一の存在だった。上級生でも、長谷川をこっそり人気のないところに呼び出して、自分に対する監督の評価や、今年の試合に使ってもらえそうかどうかを教えてくれ、と頼みこんでいる者がいた。

 それをあたりさわりなく笑顔で受け流すのは、不器用な秀幸にはできそうもない芸当だった。ひょうひょうとして面の皮の厚い長谷川。彼だからこそ務まることがあるのだ。

 ――いつかはラグビーを辞めるときが来るんだし。

 なんてひどい言いぐさだろう。そう思いながら、秀幸はもう怒る気を失っていた。思い出したのだ。春のことを。

 今年の四月、新しい部屋割りになって何人かの部員が部屋を移動した。秀幸と津和野のコンビはそのままだった。

 他の部員たちが引っ越し作業を行う中、食堂の脇にある大きなゴミバケツの陰に、肩用のサポーターが捨ててあるのが目にとまった。それは、メーカーに特注で作ってもらった長谷川専用の肩サポーターだった。

 今までこれを大事に保管していたんだ、と思った。

 主務に転向しながら、いつか出番があるかもしれない、と隠し持っていたのだ。

 秀幸はあわててトイレに駆け込んで、少しだけ泣いた。あの日ストレッチャーの上で苦しんでいた長谷川は、まぎれもなく選手だったのだ。

「あ、そうだ。試合の前に痛みどめ打ってくれるって。監督と相談してって先生に言われたんだけど」
「わかった。伝えとく」

 長谷川がサラサラと手帳にボールペンを走らせる。