「小野寺は俺とは違うって、わかってるよ」

 そう言って、長谷川はボールペンの先で頭をかいた。

「結局、俺はいくじなしだからさ。もう痛いのはこりごりっていう。でも……手術するにしろ、しないにしろ、いつかはラグビーを辞めるときが来るんだし。その時どうするか、考えておいてもいいとは思うんだ」

 ひと呼吸おいて手帳から顔を上げ、秀幸の顔を横からのぞきこんできた。

「どうかな、おもいきって一緒にマネージャーやんない? その時は小野寺が主務で俺が副務でいいよ。小野寺の方が人望あるしさ。俺、協会の仕事もあって、ひとりだと結構大変でさ」

「お前が主務だろ」

「いや、あんとき、救急車で寝てた時、俺、小野寺にはかなわねえなって悟ったんだよ。『まだ試合中なのに』『やっと試合に出られたのに』って泣き叫ぶ俺に、『肩さえ治れば、またいくらでも出られる』って言ってくれただろ。嘘だってわかってたけど……もう、無理だってわかってたけど……。あの時は小野寺がそう言ってくれるのだけが心の支えだった。ああ、俺はこいつにもう一生頭あがんねえんだろうなって、どっかで思ってた」

 秀幸はその顔をじっとみつめた。長谷川は感傷的に語ってしまったことを誤魔化すように、またにこりと笑った。食レポのうまい芸能人のような笑顔だ。

「裏方も案外やりがいあるんだぜ」
「いや、俺には無理だな」

 秀幸はうつむいた。