速水医師が、思いつめた顔で言う。
「手術の件、もし僕の腕が信用できないなら、他のスポーツドクターをあたってみてもかまわない。君のためになるならいくらでもカルテを外に出すよ。引退は、君が自分自身をあきらめてしまった時に訪れるんだ。僕はまだ患者として君をあきらめていない。今まで、自分の可能性を信じて苦しい試合を戦ってきた君なら――」
「わかってます」
言葉をさえぎると、医師はかたい表情で黙った。
秀幸は、苦いものが胸にひろがるのを感じながら診察室を出た。
※ ※ ※
「どうだった? 今シーズン終わったら手術にする?」
診察室を出た途端に声をかけられた。
のんきな口調で、遠慮なくデリケートな話題にきりこんできたのは、ラグビー部の主務を務める長谷川達夫だった。
病院の待合ソファで携帯をいじりながら、ビジネスマンのようなシステム手帳をひろげている。マネージャーの頭である主務を務めているが、実際の仕事は監督のアシスタントや付き人のようなものだった。関東大学ラグビー協会の仕事もあり、いつも忙しそうだ。今日は主力選手である秀幸の膝の具合を知るために、監督に派遣されてきたのだろう。
「手術はしない」
「マジ? 速水先生、そのままで治るって?」
三年生同士なので気安く口をきく。
「手術の件、もし僕の腕が信用できないなら、他のスポーツドクターをあたってみてもかまわない。君のためになるならいくらでもカルテを外に出すよ。引退は、君が自分自身をあきらめてしまった時に訪れるんだ。僕はまだ患者として君をあきらめていない。今まで、自分の可能性を信じて苦しい試合を戦ってきた君なら――」
「わかってます」
言葉をさえぎると、医師はかたい表情で黙った。
秀幸は、苦いものが胸にひろがるのを感じながら診察室を出た。
※ ※ ※
「どうだった? 今シーズン終わったら手術にする?」
診察室を出た途端に声をかけられた。
のんきな口調で、遠慮なくデリケートな話題にきりこんできたのは、ラグビー部の主務を務める長谷川達夫だった。
病院の待合ソファで携帯をいじりながら、ビジネスマンのようなシステム手帳をひろげている。マネージャーの頭である主務を務めているが、実際の仕事は監督のアシスタントや付き人のようなものだった。関東大学ラグビー協会の仕事もあり、いつも忙しそうだ。今日は主力選手である秀幸の膝の具合を知るために、監督に派遣されてきたのだろう。
「手術はしない」
「マジ? 速水先生、そのままで治るって?」
三年生同士なので気安く口をきく。

