「小野寺……」

 なんて声出してんだよ。なぐさめなんていらねえよ。

 笑ってそう言いたいのに、喉になにかつまったように言葉が出ない。

(これしかないのに。俺には、ラグビーしかないのに!)

 こんなところで、痛む膝を抱えて、この先の未来をあきらめなければいけないのだろうか。

 カッと、心の中に行き場のないいらだちが燃え立った。

 思い通りにいかない現実。

 いや、今までがうまく行き過ぎたのだろう。

 スポーツ選手として、とんとん拍子にここまで上ってきた。そろそろ、神様は請うと不幸の帳尻を合わせようとしているのかもしれない。

(それでも、もう少しだけ。神様、もう少しだけ俺を走らせてくれ)

 秀幸は心の中で願った。今まで神の存在など考えてみたこともなかったのに。

(もう少しだけ、茅野に赤い実を拾わせてやりたいんです、神様)

 今の自分にはそのくらいしか、彼のためにしてやれることがないのだ。