「ああ。青木と向井にバイトの枠もらったぞ。これであいつらも無事に卒業できるだろ」

 親指を上げて見せると、葛城は喉の奥でくつくつ笑った。

「ちょろいな、南条さん」
「後輩思いの義理堅い人だよ。だいたい俺とお前が組んで、うまくいかないことなんてあるわけねえだろ」

 にやりと笑って見せる。

「小野寺は怖えな」
「ばーか。曽我さんほどじゃねえよ」

 秀幸が軽く肩を押すと、油断していた葛城は一瞬よろめいた。

 葛城の曲げた脚が軽く、秀幸の膝に触れる。

 その瞬間、秀幸は、う、と息を詰めてしゃがみこんだ。

「お、悪いな。でもお前、膝触っただけで痛いなんてやべえんじゃねえ?」
「やべえよ」

 もう一度確かめるように、葛城の手が伸びてくるのがわかった。

「触んなっ」

 心配してくれていることはわかっていたが、思わず強く拒絶してしまった。

「速水先生に見てもらえよ」
「とっくに病院に行ってるよ。メス入れるかって言われて保留にしてる」

 葛城が目を剥いた。思っていたよりケガの状況が切迫していて驚いたのだろう。

 一度メスを入れたアスリートは、もとどおりの体にはならない。

 ふたりとも今まで何人もの故障者を見て知っていた。手術のあと、必死で以前のような体に戻ろうとする彼らの、血のにじむような努力と厳しい現実を。