「実戦で使うには、もう少しレベル上げしないとなー」

 ラグビー部の副将近藤が苦笑しながらカードをはじく。秀幸はうなずいた。

「そうなんです。『すばやさ』が足りないんですよね」
「あー、それ地味に傷つく……」

 津和野はぶつぶつと後ろで文句を言っている。

 野球部の主将、南条が札を捨ててから秀幸を見た。

「年末の松重デパートのバイト、二人ほど空きがある。ラグビー部で入りたい奴がいたら枠まわしてやるけどどうだ?」
「マジか、じゃ……」

 口火を切った近藤に、南条が威圧する目で制止をかけた。

「お前じゃねえよ。俺は小野寺に借りがあるって言ってんだ」

 体育部会の学生は、普段の生活がほぼ授業と練習に埋められている。金に困っていても、なかなかアルバイトができないのが実情だ。

 その中で、夏休みと年末に短期で集中して働かせてくれるアルバイトは唯一の収入源といってもよかった。

 中元と歳暮の繁忙期に、デパートの地下でもくもくと仕分けと荷積みをする作業だが、気を使う接客もなく、気心の知れたチームメイトとやれるので人気が高い。それを、デパート側との窓口になって今まで仕切っていたのが野球部の南条だったのだ。

「南条さん、ありがとうございます。そしたら、三年の青木が奨学生で金銭的にキツそうなんでお願いします。あと実家が自営の向井。あとで二人に確認しときます」