納会のあと酔っぱらった女子マネージャーを連れ込んだとか。先輩の執拗な制裁に我慢できなくなった下級生がトイレで首を吊ろうとしたとか。それらはひっそりと噂になり、やがて忘れ去られていく。

『はみだせなくなるんだよ』

 高校を出たばかりの秀幸にとって、四年の先輩はひどく大人に見えた。彼は疲れたように言った。

『ここにしか仲間も友達もいないから。部が生活の全てになっちまうから。みんなでやろうってなったとき、それが間違っていることでも、なんにも言えなくなるんだ。ここにしか居場所がねえのに、それを失うの怖いもんな』

 そこで彼は秀幸の顔をじっと見た。

『でも、それじゃだめだ。部外にダチがいるなら大事にしろ。チームが自分の全てだっていったって、四年間なんてあっという間に終わるんだぞ』

 そう言って、苦く笑った。彼の四年間に何か後悔するようなことがあったのかもしれない、と思ったが、秀幸はそのとき尋ねることができなかった。

 ただ反射的に茅野のことが頭にひらめいた。茅野は自分の聖域だと思った。

 あの時四年生が語っていた、この寮の人間が抱えている危うさ。曽我にはそれがよくわかっているのではないかと秀幸は思うのだ。だから彼は現役を引退しても、この寮の学生たちから目が離せないのではないか、と。

「小野寺ちゃん、今夜八時からここで首脳会議だってさ」

 どうせ自分が集合をかけたくせに、他人事のように曽我が言う。

「俺、メンツに入ってんすか」
「人望厚いバックスリーダーが何言っちゃってんの。来年は主将か副将確定だろ」
「修教は毎年、主将はフォワードから出してるじゃないですか」