廊下の大きな窓から差しこむ夕陽が、床のタイルに反射してまぶしい。

 オレンジ色の四角い海に二人は下半身を浸(ひた)していた。

「……兄が、僕の保護者みたいなもので」
「保護者?」

 秀幸は眉をひそめた。こいつに両親はいないのだろうか。

「僕、茅野穂(かやの みのる)。君は?」

 男子生徒は唐突に名乗った。

「小野寺。小野寺秀幸(おのでら ひでゆき)」
「大学、文学部を受けたかったんだ。でも僕んちは、両親も兄も弁護士で。だから僕も法学部を受けて司法試験にうからなくちゃならない」
「くだらね」
「兄もそう言う。詩とか小説に意味なんかないって。腹の足しにもならない。男が一生の仕事にするような価値がないって」

 誤解させた、と思った。でも涙ぐんだまま必死に話す茅野を見ていると、口を挟む気になれなかった。

「でも、だからこそ、実用性だけでははかることのできない、豊かな芸術性があると僕は思うんだ」

 誇り高くきりりとした表情はしかし、数秒後には諦観に曇っていた。

「‥‥それで、さっき兄と喧嘩になったんだ」

「お前も男だろ。行きずりの他人に手え出させて、指くわえて見てんじゃねえよ」

 唾を吐くように言って、茅野に背を向けた。