「どうする葛城? 俺も謝ったほうがいいかな?」
「ふざけんな」

 つかつかと葛城が近寄ってきて、秀幸の胸ぐらをつかんだ。もはや床なんてどうでもいい。プライドの問題だ。

 一触即発の事態に、野球部の二年が息を飲むのがわかった。

 心配すんな、と目線で告げて、しれっと葛城に言う。

「俺が濡らしたからなあ。最初に濡れてたかどうかなんて、もうわかんねえだろ」
「よその下級生甘やかしてんじゃねえよ」
「お前もつまんねえことでいちいち騒ぐなよ」

 あくまでおだやかに言うと、仕方なさそうに葛城は手を離した。さすがに同じラグビー部内でいさかいは起こしたくないのだろう。

 ほっ、と誰かが息を吐くのが聞こえてきた。

   ※   ※   ※

 身支度を終えて食堂に行く。二年の津和野は配膳の当番があって、あの後あわてて起き出して寝癖がついたまま先に行った。食堂に行くと、当番用のエプロンをしてどんぶりにせっせとご飯を盛っていた。

 トレーをとって並び、調理室とつながったディッシュアップ台から料理の皿をとっていく形式だ。

 秀幸が朝食をのせたトレーを持って、野球部がいつもかたまっているテーブルのわきを通ると、野太い声をかけられた。

「ビー部の小野寺」

 振り返ると、野球部の主将、四年の南条と目があった。堂々と構えた野球部の四年の中心に座っている。大股を開いて腕を組み、たっぷりスペースをとって座っている。下級生にはできない座り方だ。

「今朝、うちの若いモンが世話になったな」

 重々しく告げる。

「どこの極道っすか」

 思わず苦笑いで答えると、南条も日に灼けたいかつい顔を少しほころばせた。