部屋のつきあたりの窓から、まぶしい光がさしこむ。水色の薄いカーテンは簡単に日光を透かしてしまう。

 秀幸は起き出して、二段ベッドのはしごを降りた。下段の津和野はまだ眠っている。決められた時間に先輩を起こすのは後輩の仕事のはずだが、津和野が先に起きたことはほとんどない。

 寝間着のスウェットのまま、ひげ剃りや歯磨きの入ったプラスチックのカゴを持って部屋を出た。洗面所とトイレは共同だ。三階の洗面台は朝食の時間の直前にはかなり混むのだが、今はまだすいていた。

 横長のステンレスの洗面台が向かい合わせになっている中で、空いている蛇口の前に陣取った。天井に採光窓があって明るく陽がふりそそぐ。シンクの上の棚には色とりどりのキャップのついたプロテインシェーカーが並んでいた。

「おい? 床が濡れてんじゃねえか」

 爽やかな早朝の空気を破って、怒号が飛んだ。

 またか、と誰かが嘆息するのが聞こえた。声のほうを見なくても凶悪な声でわかる。騒いでいるのはラグビー部の三年、葛城壮一郎だ。

「昨日の掃除担当は野球部だろか? 野球部の二年、いるか?」

 該当するらしい一人がびくつきながら片手を上げた。

「自分、野球部二年の青木です」
「一年になめられてんじゃねえよ。お前らの教育がなってねえから、こんな掃除の仕方すんだろ」

 葛城のポジションはナンバーエイト。その突破力から核弾頭とも表される。三年にして修教大の斬りこみ隊長だ。身長百八十五センチ、体重九十キロの数字は大学ラグビーでは大きいほうではないが、他の部会生から見れば筋骨隆々の体躯に十分威圧を感じるだろう。