※   ※   ※

 男子錬成館。それが修教大学体育寮の名前だった

 鉄筋コンクリートの立派な建物は一、二階が会議室や研修室。地下にカフェテリア形式の食堂を持ち、三階から五階までは体育部会の男子寮になっていた。ラグビー部、硬式野球部、陸上部、体操部。四部会が共同生活をしている特殊な空間だ。

 一人部屋は陸上、体操など個人競技の部員に優先的にわりあてられ、団体競技の部員たちは二人部屋だった。ラグビー部は旧寮時代から、同じポジションの先輩後輩を組み合わせる伝統があり、秀幸は一年目は四年の先輩と同室だった。次の年には津和野が入学して、ちょうど入れ替わりになった。

 その頃から、時々寮の自室で茅野を寝かせるようになっていた。三階の寮の出入り口には守衛の詰め所があって、女の出入りにはうるさいが、男はほぼスルーだった。

 午後六時の夕食の時間になって、そっとゆりおこしてやると、茅野は会った時より少しばかりさっぱりした顔で起きあがり、帰り支度をする。

「ごめんね、でも、来週も休講掲示板の前で待ってていい?」

 寝起きのぼんやりした無防備な顔で、それでも懸命にたずねてくる。

「いいよ。また来週な」

 そう言って寮の玄関まで見送るのが、秀幸の月曜日の全てだった。

 茅野の姿が暮れていく道路に見えなくなると、どうしようもなく胸がきしんだ。

 本当にこれでよかったのか。もっとほかにしてやれることがあったんじゃないのか。そんなことをぐるぐる考えながら、その夜は布団にしみこんだ茅野のデオドラントの匂い――爽やかなウッド系の香りの残るベッドに入って、もんもんと火曜の朝を迎えるのだ。