わざわざ言われなくても、この可憐な外見で、まっすぐに好意を向けられて。とっくに劣情などわいている。いっそのこと抱いてしまえばいいのかもしれない。

 でも。これほど必死で頑張っているのだから、あくまで純粋な努力家でいさせてやりたいのだ。息苦しい家庭で生きている彼に、ストレスの元になるような隠し事を抱えこませたくない。

(同性愛なんて)

 これ以上、周囲と摩擦を起こしたら、彼の心は壊れてしまうかもしれない。

 恋人同士のように触れなくていい。自分と会っている間だけ守ってやれればそれでいい。そう秀幸は自分に言いきかせている。今の状態のまま、よくわからない関係のまま。ずるずるかたちばかりの不純な友情のままで。

 それでも彼がひととき心から笑い、安らいで眠ってくれるなら、自分はそれでいいのだと。

「津和野、これ読み終わった。やる」

 閉じてしまった雑誌を投げてやると、

「ゴチでーすっ」

 嬉しげな声とともに津和野は体をひねって見事にキャッチした。反射神経はいつも文句なしだ。