「へえ。じゃ茅野が起きたら教えてやろうか。津和野が好みだって言ってたって」
「いやいやいやいや、やめてくださいよ。絶対話がややこしくなるでしょ」

 否定するくせに、微妙に耳が赤くなるのが秀幸はどうも気にくわない。

「茅野さん、なんで毎週ここで眠ってるんですかね」

「勉強で疲れてるんだよ。こいつ法学部で。家族もみんな法曹界のエリートで。司法試験に現役で合格しないとなんないらしくて、今から大学と法科学校のダブルスクールなんだよ。睡眠時間、足りないんだろ」

 ほえ、と津和野が変な声を吐いた。自分たちの所属している商学部と、人気の高い法学部との偏差値の違いを知っているのかもしれないと思う。

「でも、小野寺さんと会ってるのに、ここで寝ることないじゃないですか」
「黙ってろ」

 津和野がいつになく神妙な顔になった。深刻そうに眉間にしわを寄せて、秀幸に顔を近づけてきた。耳元でささやく。

「……小野寺さん、俺、口かたいんでそろそろ本当のこと言ってくださいよ」
「あらたまってなんだよ」
「……クスリ、盛ってんすよね」
「はあ?」

 予想外の言葉に、ぱらぱらと雑誌のページが閉じていった。

「お前、何言ってんの?」
「ほら、媚薬とか誘淫剤とか。昼飯にやばいクスリ盛ってどっかでサカったあと、抜けるまでここで寝かせてるんですよね」

 はああ。秀幸は深くため息をついた。あきれてしばらく言葉も出ない。

「じゃ、お前はそんなあぶない性犯罪者と暮らしてんのか」