「どうせ二年がいじめたんだろ」
「部屋に退部届け置いてあったって話で」
「バカだな」
「大学でみつけたら連れてこいって、体操部の上級生がいきり立ってますよ」

 怖ええ、と津和野は肩をすくめて見せた。

「お前はどうだ?」
「なんすか」
「逃げた奴がうらやましいとか、思ってないか?」
「なに言ってんすか。俺はずっと小野寺さんについていきますですよ」
「おい、日本語おかしくなってんぞ」

 信じてくださいよう、とこぼした津和野がベッドを見てかたまった。

「あ、茅野さん、ちっす」

 眠っている茅野に、へこっと頭を下げると、秀幸をふりかえった。

「あの、小野寺さん、ほんっとうにこの人とデキてないんすか」

 声のボリュームをしぼりつつ、納得行かない口ぶりで津和野が言う。
「茅野は男だぞ」

 秀幸はラグビー雑誌から目を離さずそっけなく答えた。

「いや、でも、この状況、俺どう理解したらいいのかわかんないっす」
「高校時代からのダチだって、だいぶ前に説明したよな」

 秀幸は雑誌からちらりと目をあげた。目が合うと、津和野はとりつくろうように言う。

「あの、でも、茅野さん、この顔じゃないですか。もういっそのこと小野寺さんとデキてても俺、ぜんぜん驚きませんよ」