『小野寺秀幸、WTB(ウイング スリークオーター バックス)三年。身長177センチ、体重75キロ。スピードと器用なステップワークが評価され、二年次からレギュラー入りした有望選手。高校ジャパン候補経験者。今シーズンではバックスリーダーをまかされ、チーム幹部の重責を担う』

 ベッドの上の茅野が、もぞりと寝返りをうった。さっきからドアの向こうが騒がしい。何か寮内でトラブルがあったのかもしれない。いつもなら確認に行くのだが、今はただ彼のために少しでも静かになってほしい、と願いながら、仰向けになったおだやかな寝顔をみつめていた。

 やがて、こんこん、と遠慮がちにドアをノックする音がした。

「なんだ?」
「小野寺さん、俺っす」

 同室の津和野が大学の講義から帰ってきた。

「自分の部屋にノックとか」
「だって先輩がお取りこみ中だったらやばいじゃないですか」
「お取りこみ中って、まだ昼間だぞ」

 津和野友輔は同じラグビー部の一年後輩だ。ポジションは同じWTB。ウイングとしては小柄だが、千葉の強豪校からやってきた期待すべき後輩だった。上の両犬歯を折っているので前歯ばかりが目立って、ビーバーとかハムスターとかそういうたぐいの動物を連想させる。人の良さそうの顔つきともあいまって愛嬌がある顔だった。同じ部屋に起居してもう二年目になる。

「さっきからなんの騒ぎだよ」
「ああ、体操部の一年がひとり夜逃げしたみたいで。みんなが授業に出てる間に荷物ごといなくなったって」

 話しながら、チームロゴの入ったエナメルバッグをどさっと床におろした。