「お腹すいた? お昼これからだよね」
「ああ」
秀幸はいつになく優しい声になっていた。茅野と一緒にいると、部内で気を張っている自分とは違う自分になっているのを感じる。
「外行くだろ? ほら、ここどう?」
茅野が携帯の画面に近所のレストランを表示させた。チェーンのレストランの中では高級な部類だ。熟成赤身肉のビーフステーキのフェアをやっているらしい。分厚く切った肉が鉄板の上で霧のようにドリップを飛ばしている写真が、秀幸のすきっ腹を直撃した。
得意げな顔つきでこっちを見上げる茅野の顔を見ると、こいつは本当に俺の好みを把握したなあ、と秀幸はしみじみ思った。
「すげー魅力的。けど、高そう」
「いいよ。僕が出すから。小野寺はバイトもできないし、後輩におごったりして大変だろ」
「でも、いつもだしな……」
「いいんだよ。おごらせてよ。アスリートなんだからしっかりしたもの食べなきゃ」
目をきらきらさせて微笑まれると、返す言葉もなくなってしまう。
「……小野寺が来てくれるだけで、僕はうれしいんだから」
ほんの少しはにかんで言うと、今度は急に黙って顔を伏せてしまった。
ちくりと秀幸の胸が痛む。
なにかが不自然なのはとっくに気がついていた。本当はこんなふうに彼の好意を利用してはいけないんだろう。そう思いながら、大学に入ってからもう三年もずるずるとこんな不思議な関係を続けている。
男と女だったらとっくにつきあうか別れるかして答えが出ていたのだろう。それでも男同士ということに甘えて、「友情」という大きなくくりの中に秀幸と茅野は身をひそめている。そこが二人にとって安全な場所だと思っているからだ。
「ああ」
秀幸はいつになく優しい声になっていた。茅野と一緒にいると、部内で気を張っている自分とは違う自分になっているのを感じる。
「外行くだろ? ほら、ここどう?」
茅野が携帯の画面に近所のレストランを表示させた。チェーンのレストランの中では高級な部類だ。熟成赤身肉のビーフステーキのフェアをやっているらしい。分厚く切った肉が鉄板の上で霧のようにドリップを飛ばしている写真が、秀幸のすきっ腹を直撃した。
得意げな顔つきでこっちを見上げる茅野の顔を見ると、こいつは本当に俺の好みを把握したなあ、と秀幸はしみじみ思った。
「すげー魅力的。けど、高そう」
「いいよ。僕が出すから。小野寺はバイトもできないし、後輩におごったりして大変だろ」
「でも、いつもだしな……」
「いいんだよ。おごらせてよ。アスリートなんだからしっかりしたもの食べなきゃ」
目をきらきらさせて微笑まれると、返す言葉もなくなってしまう。
「……小野寺が来てくれるだけで、僕はうれしいんだから」
ほんの少しはにかんで言うと、今度は急に黙って顔を伏せてしまった。
ちくりと秀幸の胸が痛む。
なにかが不自然なのはとっくに気がついていた。本当はこんなふうに彼の好意を利用してはいけないんだろう。そう思いながら、大学に入ってからもう三年もずるずるとこんな不思議な関係を続けている。
男と女だったらとっくにつきあうか別れるかして答えが出ていたのだろう。それでも男同士ということに甘えて、「友情」という大きなくくりの中に秀幸と茅野は身をひそめている。そこが二人にとって安全な場所だと思っているからだ。

