君の膝の骨になりたい

 そんな顔をしないでくれ、と秀幸の心が騒ぎ始める。

 静かな室内で、秀幸は激しい波音を聞いていた。

 交わるはずのない海流が混ざりあう音だ。

 でたらめに渦を巻く波の中、出会うはずのない二匹の魚は出会ってしまった。

 今頃、チームメイトたちは仲間の家に集まり、スナック菓子でもつまみながら男同士のセックスを見て笑いあっているだろう。今の自分は、何事もなかったようにあっちの魚群に戻れるだろうか、秀幸は恐れを抱く。

 やつらとこの先も一緒に泳いでいけるだろうか。

 息苦しい。

(だから俺は茅野が嫌いだ。今までの俺の生き方を脅かす、茅野の存在が嫌いだ)

 それでも秀幸の意に反して、これから南天の実をみかけるたび――あの生け垣でよく見るような平凡な植物の実を見るたびに、秀幸は今日の茅野を思い出すだろう。そして心のどこかを絞られるような、不思議な痛みを覚えるだろう。

 きっともう、自分は茅野の修辞学(レトリック)に魅せられてしまったのだ。それが茅野の意図した手管なのか、無自覚な言葉遊びなのかもわからないままに。

 秀幸は立ちあがった。バックの持ち手を拾い、頭を入れて斜めがけにした。

「大学では寮に入るんだ。男子錬成館っていう。俺は自宅から通えなくもないけど、スポーツ推薦の生徒は全員入寮する決まりなんだ」