高校三年の晩秋だった。

 授業は午前で終わり、午後は三者面談が開かれていた。おおかたの生徒の話題は進路調査と志望校の決定だ。

 秀幸が部活に向かうため第一校舎と第二校舎とをつなぐ橋廊を歩いていると、見覚えのある生徒が倒れこむほどの平手打ちをくらっている場面にでくわした。

 気がついたときには、駆け寄って叩いている男の手をつかんでいた。ほうっておおいたら、この男はすぐに二発目、三発目の打擲をくわえていただろう。

「家庭内のことに口出しするな」

 男には話が通じないようだ。秀幸は何も言わずに、親指と人差し指で彼の手首の骨を締めた。外側に突起している関節部分だ。ごりっと音がして、相手が顔をゆがめる。それでも悲鳴をあげないだけの根性はあるらしい。

「そうですか。こいつとあんたが、『暴力』って言語でお話ししてるんだったら、俺とも話してみます?」

 けっこう楽しめると思いますよ、と笑顔で言い添える。

 男の目が侮蔑を含んで、すっと細められた。「野蛮な連中」、そう言いたげだ。きっとわかっているのだろう。秀幸の濃紺のジャージ姿を見た時から。

 ラグビー部。文武両道を誇るこの学校の強化部だ。偏差値七十を超える名門進学校で、ペーパーテストを受けずに学力度外視のスポーツ推薦で集められた集団。

「話にならんな」
「あ、あの……僕は大丈夫だから」

 すわりこんだ生徒が泣きそうな声で言う。