君の膝の骨になりたい

「南天の実だよ。小学校の時さ、近所に作り話の上手な子がいて、これを僕にくれてささやくんだ。『これは火炎竜の秘石だ』って。『誰にも秘密だよ』って」
「は? 厨二病かよ?」

 秀幸が眉をひそめると、茅野はくすくす笑いだした。

「いや、まだ小五病くらいだよ。これを使えば僕は魔法で火を噴けるようになるらしい」

「なんだそれ」
 マリオのファイヤーフラワーかよ、と秀幸があきれたように言うと、茅野はさらに楽しそうに笑う。

 興奮して、声をたてて笑って。今日の茅野はやけに表情豊かだ。いや、普段が抑圧されているだけなのか。これが本来の姿なのだろうか。

 茅野は目尻にうかんだ小さな水滴を人差し指の先でぬぐった。

「うん。僕も嘘だってわかってた。それでもよかった。その子が僕のために物語を作ってくれたのが嬉しかったのかもしれない。それから僕は、これをピンチのときの最後の手段だと思ってポケットの中に入れて、兄の意地悪に耐えた」

 十歳の茅野が二十歳の兄にどんな仕打ちをされていたのか想像もつかない。

「なにもかも完璧な人間になって兄を見返そうって思ったこともある。でも、そんな生き方……僕にはできなかった」

 茅野のせつなげに透徹した表情が、秀幸の胸をついた。

「あの家にいると……なんのために生きているのか、自分でも時々わからなくなるんだ」

 嘔吐するように声を絞り出す。身体が話すことを拒否していて、それでも話さずにはいられないようだ。

「でも、小野寺が走ってる姿を見ると、勇気がわいてくる。僕はこの南天の実を、両手に持ちきれないほど拾うことができるんだ。だから、ずっと君を見てた。ストーカーみたいでごめんね」

 泣きそうな顔で笑った。分厚い霜柱を割って咲く早春の花のように。