君の膝の骨になりたい

 一度言葉を切る。

「……兄はたぶん、そのことが許せないんだ。幼稚園受験もせずにのびのび育った僕が、のんびり学校生活を送ってるのを見ると、胸をかきむしりたくなるんだろう。成果主義にならって必死で周囲の期待に応えてきた自分の人生が、まるっきり徒労だったみたいでやりきれないんだろう」

 くるりと茅野がふりむいた。凍った湖のような寂しい目をしていた。

「兄は僕にやたらと干渉して、自分と同じように生きろと強制する。両親がさんざん甘やかしてきたから、僕がこんな身勝手で軟弱になったんだって言う。両親も兄の気持ちがわかるから止めようとしない。――僕は兄と同じように苦しんで努力して、兄の生き方は間違ってなかったって証明しなきゃいけないんだよ」

 秀幸は廊下でむきあったインテリの顔を思い出した。茅野の兄は、自分の人生を前向きに肯定しているようには見えなかった。自分のかわりに、ひときわ繊細な茅野が悲鳴をあげて壊れていくのを周囲に見せつけたがっているように感じた。

 あの日、廊下で弟に暴力をふるっていた茅野の兄。彼の顔は整っているにもかかわらず、加虐心まるだしの醜い顔をしていた。

 あれは秀幸にとって、自分の戦意をかきたてる好ましい顔だ。試合中にこんな顔をした連中にぶちあたって、ふっとばす瞬間は最高に血がたぎった。

 茅野は秀幸の椅子に近づき、スチール机をはさんで正面に座った。

「小野寺くんはすごいんだね。僕はラグビーは全然わからないんだけど、この冬休みは小野寺くんの試合をずっと見てた。うちスポーツ専門チャンネルが見れるんだ」
「気持ちわりいから、くん、とかつけんな」

 うざったそうな口調で返すと、茅野はむしろ嬉しそうな顔をして、この冬の秀幸の戦績をとうとうとまくしたてた。