君の膝の骨になりたい

 いうまでもなくスポーツ推薦だ。

「僕も修教大の法学部受けることにしたよ」

 にこにことして言う。

「文学部じゃなくていいのか? 結局、お前んちはどうなってるんだよ」

 遠慮のない言葉をぶつけると、茅野はまた黙った。

「……寒いね。もう窓締めるよ」

 茅野は背中を向けて窓にむかう。カラカラと窓枠が桟をすべる音がした。暗い空を切りとる窓ガラスは、鏡面のように茅野の顔を写す。口許に小さなアザをつけた淋しげな顔だ。

 後ろ向きのまま、こころもちうつむいて口を開いた。

「兄のこと、話そうか」

 秀幸はうなずいて携帯電話をポケットにしまい、黙って椅子に座りなおした。

「僕の両親は、最初の子供が生まれて、嬉しくってね、ものすごい一生懸命教育したんだ。言葉も話さないうちから英会話教室に通ったり。有名なプレスクールに入れたりして。少し大きくなってからは、教育に悪そうなテレビは一切見せないようにして、ゲームもまったく与えなかった。兄は法科大学院を出てすぐに司法試験に合格して、地方裁判所の検事になった。今は公務員をやめて両親の弁護士事務所で次期所長として働いている。僕は、兄を尊敬してる。克己心の強い成功者だと思ってる。でも、もうずっと前から兄が心から笑うのを見たことがない。兄はたぶん……自分でも気がつかないまま大事な何かを犠牲にしちゃったんだ」

 ほっそりとしてそれでいて男の特有の骨の出た背中が、ため息にゆれた。

「両親が兄に隠れて言うんだ。だからお前のことは勉強を強要せずに自由に育てたんだって。あの子はちょっと優秀に育ってしまいすぎて怖いって。……そんなことを両親が言うんだよ」