「わりい、先行ってて」

 気がつくともう走り出していた。

「小野寺、大津んち、わかる?」
「いや、俺はやめとくわ」

 ふりむかずに答えた。

 創立当時の内装を残している図書館は、玄関から照明が灯っていた。

 真鍮の手すりがついたレトロな木製の階段を、三段抜かしで駆け上がった。

 図書館の二階はデスクを並べた自主学習ルームになっていたが、もうほとんど生徒はいなかった。

 茅野の姿が見えた窓は、その隣だ。

 図書準備室。今まで秀幸には縁のない一角だった。一般の生徒が入っていいのかさえもよくわからない。それでも扉を開けた。

 茅野は立っていた。他には誰もいなかった。

 ブレザーの制服を着た彼の後ろで、白いカーテンが夜風にふくらむ。

 普通の教室ほどの広さの部屋には、いくつか長机が置かれていた。本が積み上げられ、その脇にカバーシールを施すための機械が置いてあった。

 茅野は窓際に立って、驚いたように目を見開いたまま何もしゃべらない。

 秀幸は作業用の長机をかきわけるようにしてまっすぐ進み、茅野の前に立った。

 エナメルの鞄を床に落とす。