カチカチとコントローラーのボタンの音だけがする。

「撃てないっ。撃てないんだがっ」
「弾丸装填してないからでしょ。装填してくださいよ。ってか、もうここは俺がやっつけときますよ」

 テレビ画面から銃声がした。

「すごい。津和野くんは強いね。たのもしいね」
「いや、まだゲーム始まったばっかですからね、ていうかお兄さん、俺がこのゲーム持ってきたとき『ああ、これね、懐かしいね』みたいなこと言ってたじゃないですか。でも、絶対初心者ですよね。ていうか、もうこういうゲーム全般、やったことない人ですよね」

 なにかぼそぼそと小さな声で茅野の兄が弁解している。

「……ああ、すみません。そんな落ち込まないでくださいよー。てか、お兄さんが知らないだろうなーって思ったから俺も持ってきたんすよ。これ面白いっすよ。俺マジはまりましたもん」

 気を取り直したのか、またうるさく叫びながらの前代未聞のへったくそなゲーム実況が始まる。

 そういえば、茅野の兄が寮に押しかけてきた日、津和野が茅野の兄のことを話していた。

「あの時、どうでもいい世間話してなんとかお兄さんを足止めしようとしたんすけど、全然話が通じないんですよね。有名な漫画もアニメも格闘技も知らないし、ゲームもやってないみたいだし。パチンコも麻雀もですよ。芸能人とかも興味ないみたいで。ああいう人ってなにが楽しくて生きてんでしょうね。俺にはわかんねーな。あ、でも、変わってて超面白い人だなって思いますよ。これから楽しめばいいんですよね」

 と、ひどく興味深そうに話していた。