「ここはチャイルドルーム。子連れで相談に来た人のために玩具やDVDやテレビゲームを置いてるんだ」

 カーテンの隙間から奧がちらりと見えた。畳ふうの厚みのある敷物を敷いた四畳くらいのブースだ。

 テレビ画面がちかちか輝く。表示されたゲームタイトルは、十年ほど前に流行った懐かしいゾンビもののアクションRPGゲームだった。その前に誰かいる気配がある。

 茅野が口元に指をあてて、静かに、と指示してから、そっとカーテンの合間からのぞきこんだ。

 後ろ姿だが、きっちりとしたスラックスにYシャツ、サスペンダー姿の大人の男がちんまりと体育座りになっていた。髪は隙ひとつないオールバックだ。そのとなりには、若そうな短髪の男が、「房総学園」と印字された着古したジャージ姿であぐらをかいている。

(津和野?)

 オールバックの男があたふたと叫ぶ。

「津和野くん、津和野くん、これ後ろ向きにしか歩けない! 後ろ向きにしか歩けないんだがっ」
「お兄さん、コントローラー握りしめすぎです。側面にあるボタン押しちゃってるんですよ。ここ、はなして」

 かちゃかちゃと不器用にコントローラーを握りなおす音がする。

「津和野くん、あ、ゾンビ来たっ。ゾンビ来たんだがっ」
「あー。お兄さんが勝手にドア開けたからじゃないすか」
「開いたんだよ、勝手にっ」
「いや、耳元でいちいち報告しなくていいですから。撃ってください。やられちゃいますよ」