『もしもまほう使いがいて、ねがいごとをかなえてくれるなら、ぼくは一日だけ、みのるになってみたいです。みのるになって、じゅくを休んで、家でゆっくりおやつを食べたいです。そしてお母さんにおもいっきり甘えてみたいです。一日だけでいいからそうしてみたいです。     かやのしげる』

     ※   ※   ※

 秀幸は茅野につれられて都内のビジネス街にやってきた。

 地下鉄の駅から地上に上がって歩道橋を渡る。三車線ずつある幹線道路はヘッドライトの白い光とテールランプの赤い光が綺麗に別れて流れていた。その脇には夜空を浸食するような高層ビルの群れ。

 その一つに茅野法律事務所の看板をみつけた。

「ここだよ」
「一等地か、すげえな」

 観葉植物の鉢を置いたエントランスを入り、エレベーターで五階に上がる。看板の出ているドアの前まで来た。営業終了の札がかかっている。

「意外な人が来てるから、びっくりするよ」
 もう夜の十時をまわっている。わざわざ寮の夜間外出許可をとってきたのだ。
「もう終わってるんじゃないの?」
「うん。でもあのふたりがいるんだ。いつもは僕らみたいにオフの月曜日に会ってるみたいだけど。今日は仕事が早く終わったから一緒に遊んでるんだ」
「ふたり?」

 茅野がそっとドアを開ける。鍵は開いていたようだ。

 中は明るく、空調もきいていたが、他の従業員はすでに帰ったようで人影はない。ブースで仕切られた相談用の個室があった。そこを通り過ぎると、可愛らしいクマの模様のカーテンで仕切られた一角が見えてきた。