低い声に上を見上げると、踊り場に葛城が立っていた。

「お兄さん、弁護士さんっすよね。今どきLGBT侮辱するようじゃ人権なんて語れませんよ」

 太い腕を組んで見下ろしている。

「……葛城」
「お兄さん、自分は三年間小野寺を見てきましたが人望も根性もありますし、弟さんなかなか見る目があると思いますよ」

 歩み出てきたのはラグビー部の副将近藤だ。その隣には主将の阿部もいる。二人が並ぶと壮観だ。

「すいませーん。茅野くんをラグビー部にスカウトしたの俺なんで、苦情ならこっちでおうかがいしますよ」

 システム手帳を手にあらわれたのは主務の長谷川だ。ぺこぺこ愛想よく頭をさげながら、まったく自分のペースを崩さない。

「お、弟を、ラグビー部に? ……一体君たちは何を考えてるんだ。こんな軟弱なやつが、なんの役に」

 せせら笑う兄に、長谷川はベテランセールスマンのような笑顔で語る。

「茅野くんには副務になってもらおうと声かけさせてもらいました。副務って、つまり男子マネージャーですよ。もちろん、女子マネはすでに何人かいるんですが、この寮は一応女子禁制になってるんで男子のマネージャーがもうひとりいると助かるんですよねー。OB会の会員へ送付する手紙だとか、記録とか議事録とか……意外と文系スキル必要なんですよ。というわけで、俺としましては、お兄さんにもぜひ茅野くんの入寮に同意していただきましてですね……」

 兄の顔がとうとう動揺にゆがんだ。

「に、入寮?」