コーチに来るOBの一人が、パソコンでいかがわしい動画を集めてDVDに焼いたものを貸してくれる。それを当然のように部員の中でまわし見ている。同じAV女優の画像で部員の皆が自慰をしていることさえも、まるで一つの結束のような不思議な連帯感だった。

 額を集める三年は全員、下着代わりのアンダースパッツ一枚になっていた。全員が平等に汗臭い。擦り傷を作っている者がいるせいか、湿気た空気には血の匂いも混じっている。

 シャワーブースへ続くドアは開けっ放しだ。派手な水音がしている。シャンプーの香りを含んだ湯気が、雲のように天井付近に集まり、やがて小さな換気扇に吸い込まれていった。しけった空気の中、淫靡な笑い声がわいた。

「ほら今、看護師とかいうじゃん。看護『婦』モノじゃなくて看護『師』モノだったらしい」

 コンクリートの壁に腕を組んで寄りかかっていた長身の部員が、喉を鳴らして笑った。太腿の外側はセービングで派手にすりむいて桃色の肉を見せている。

「看護師って男か」
「ナース服着てよつんばいになって、よだれ垂らしながら、ぶっといお注射おねだりしちゃうんだってさ」
「やべえ。怖すぎる」
「けっこうハードだな」

 みんな男同士の性行為に本気で興味があるわけではない。無邪気な怖いもの見たさだ。見ながら嘲笑、侮蔑することは目に見えている。自分もこの輪の中にいて、男に抱かれる男を見て、それを笑わなければいけないのだろうか。

 秀幸は、のびをするフリをして天井をふりあおいだ。白く曇る視界。コンクリートの壁に埋め込まれたプロペラ式の換気扇が、けなげに空気を撹拌している。

 口を開けて息をする。水蒸気とはこんなに息苦しいものだったろうか。

「来るだろ、小野寺も」

(それとも最近、俺は息をするのが下手になってしまったのだろうか)

 いいようのない苦しさを感じながら、秀幸は返事につまっていた。