「いい加減にしろよ」
秀幸は、男の振りあげた右手を背後からつかんだ。
その男は首をねじ曲げて秀幸のほうをふりかえる。二十代後半くらいか。切れ長の目、整った柳葉のような眉。鼻は高く、頭の良さそうな顔をしていた。スーツがよく似合っていて、いわゆるインテリ、とか呼ばれる人種のようだった。
インテリ男は精一杯恐い顔でにらんで来るが、秀幸は怖く感じなかった。手首をつかんだだけで、だいたい身体の鍛え方はわかった。乱闘になっても負ける気はしない。
廊下の隅に男のカフスボタンの片側が転がって、キラキラ西日に光っていた。その横で、腰が抜けたように座りこんでいた男子生徒が、おびえた目で秀幸と男をかわるがわる見ている。制服のネクタイは、さっきまでつかまれていた形にブレザーから引き出され、片頬は真っ赤に充血している。手形まではっきりわかりそうだった。
「誰だ、お前は」
秀幸に右手をつかまれたまま、男が低い声をはなった。
「俺? ここの生徒ですけど」
「はなしなさい」
「無抵抗の人間叩くなんて暴力でしょ、おじさん」
「暴力じゃない。進路の話をしてただけだ」
男は秀幸に向きなおって、右手を抑えている手をはらいのけようと、体をよじる。鼻で笑いそうになった。喧嘩慣れしてない素人だ。
秀幸は、男の振りあげた右手を背後からつかんだ。
その男は首をねじ曲げて秀幸のほうをふりかえる。二十代後半くらいか。切れ長の目、整った柳葉のような眉。鼻は高く、頭の良さそうな顔をしていた。スーツがよく似合っていて、いわゆるインテリ、とか呼ばれる人種のようだった。
インテリ男は精一杯恐い顔でにらんで来るが、秀幸は怖く感じなかった。手首をつかんだだけで、だいたい身体の鍛え方はわかった。乱闘になっても負ける気はしない。
廊下の隅に男のカフスボタンの片側が転がって、キラキラ西日に光っていた。その横で、腰が抜けたように座りこんでいた男子生徒が、おびえた目で秀幸と男をかわるがわる見ている。制服のネクタイは、さっきまでつかまれていた形にブレザーから引き出され、片頬は真っ赤に充血している。手形まではっきりわかりそうだった。
「誰だ、お前は」
秀幸に右手をつかまれたまま、男が低い声をはなった。
「俺? ここの生徒ですけど」
「はなしなさい」
「無抵抗の人間叩くなんて暴力でしょ、おじさん」
「暴力じゃない。進路の話をしてただけだ」
男は秀幸に向きなおって、右手を抑えている手をはらいのけようと、体をよじる。鼻で笑いそうになった。喧嘩慣れしてない素人だ。

