「どうしたの?顔色悪いけど」
コンビニで買い物を済ました後、翔は私にそう言った。
「姫莉が、家出したの」
「えっ、また~?」
うなずいて、少し悲しくなる。
「なんで家出したの~?」
私は「よくわからないけど…」と、「秘密言い合いっこ」のことを言った。
そうしたら、帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「よし、復讐しに行こう」
「え?」
「日葵を気づつけた姫莉に、復讐する!」
翔は私の手を引いた。
「行こう。姫莉がいる場所、知ってる」
「どこ?」
「三丁目のホテル。」
どこで知ったのだろう。翔はホテルに向かって歩き出した。
「どうして分かるの?」
「歩いてたら、ロビーに姫莉、いたから」
 姫莉はホテルにいた。
でも、一人じゃなかった。そこには、なんと蒼空くんがいた。
「どうして…!」
驚く私を横目に、姫は私に頭を下げる。
「日葵ちゃん、ごめん!」
「えっ」
「私、嘘ついてた。本当は、日葵ちゃんのこと、心から守りたかった」
「言ってくれたじゃない!」
姫は、本当に私のことを守ってくれた。小さなころも。蓮と付き合えるようになった時も。
姫が頭を下げる必要なんかないよ!
「日葵ちゃん。夢、隠してない?」
「夢?」
姫は私の近くに行くと、私の頭の上に手を置いた。
「アイドル、なりたいんでしょ」
そう言われたとき、体全体が熱くなった。それと同時に、涙が溢れてきた。
「泣かないで。アイドルは泣かないから」
「…う、うん。分かった。」
私にはできないって決めつけたのも私。私は地味って決めつけてたのも私。
全部、私だったんだ。
気づいた。本当に「アイドルになりたい」ということを。私の夢を。
どうして言い出せなかったのだろう。
不安だから?伝えるのが怖いから?姫を信用してるのに。
伝えたいことを伝えられる勇気って、すごく大事なんだな。姫にはそれができる。
でも、だからといって私ができないとは限らない。
私にも私なりの「伝え方」がある。今、そう思えたのは姫のおかげ。
姫。蓮。翔。愛花。お父さんとお母さん。大事な人たちの名前と、大事な思い出。
涙と一緒に、笑顔も溢れた。