強くなりたくて、姫に反発した。
そしたら、姫が喜ぶと思って。
「強くなったね」って言ってくれると思って。
でも、そうじゃなかった。だけど、姫は私より強かった。
ううん。勝手だったんだ。ーもちろん、姫は優しいし、頑張り屋さんだ。
だけど、隠しきれない「闇」があったんだ。姫はアイドルとしては相応しい。
だから。だからー「優しい子」になれないんだ。
それを伝えないと。自分の力で、堂々と姫に教えてあげないと。
それなのに…
言えなかった。言えなかった自分が大嫌い。私は地味で何もできない。
そんな自分を好きになれない。不器用で虚しくて辛い自分を愛せない。自分なのに。
泣いてしまった。「泣かない」って決めたのに。
どうして人は泣くのだろう。何のためなの?私が生きているのは何のため?
姫を、蓮を守って愛すため?お父さんとお母さんがしたことが無駄じゃないって言うため?
本当になんで?
お父さんとお母さんがいたとき、そして亡くなったときのことを思い出した。
忘れたときなんかない。いや、忘れられない。
 ー五年前。パパは私たちを雪山に連れて行ってくれた。
ママはスキーができないけど、温かく見守ってくれた。
「楽しかった~」「疲れたね。」なんて言いながら、東京に帰ろうとした。
でも、帰った先は東京じゃなかった。家でもなかった。病院のベットだった。
「この辺、雪がたくさん降ってる~!」
姫がはしゃぎながら言った。ママが優しく微笑む。
「前が見えないな…。危ない」
パパが不安そうに言った。雪が積もって、霧のようなものになっている。
「何言ってんの⁉安全運転でオ・ネ・ガ・イ!」
姫がふざけて言った。私は何も言わず下を向いている。楽しい雰囲気なのに。
入れなかった。いつも、記憶の中には、楽しそうに遊んでいる姫と二人しかなかった。
パパとママはよく話しかけてくれたけど、私は少ししか話せなかった。
そして、二人が死ぬ時が来た。
「キキッー」
響くブレーキ音。甲高い音と共に痛みがじわじわ湧く。
姫の悲鳴。「バコン!」という音。何かがつぶれる音。ガラスの破片。
全て忘れたい。全部なかったことにしたい。
私を助けて。弱くて、愚かで、無能な私を助けて。
嫌だよ。二人が死ぬなんて。
幸せってどこにあるんだろう。もしかしたら、ないのかな。
「この子には幸せはあげません」って誰が決めるの?神様?もしかして、自分?
私は自分で自分を貶してるの?
私って何なの?
答えが分からない。悔しくて、下唇をかんだ。
そのとき、少しだけ血が滲んだ。