「姫。どうしたの?何か悩んでるなら言って」
「うるさい!」
心配した私の声を遮って、姫は言った。私に背を向けている。
「姫。お願い…」
「日葵ちゃんが、傷づくから」
「私が傷つくから?そんなの気にしなくていいよ。」
姫は、私の方に振り向くと、私をにらんだ。
「日葵ちゃんを守ろうって、頑張って生きてきた。アイドルを始めたのもそのため」
私を守ろうとして、生きてきた。姫が発する言葉が一つずつ心に刺さる。
アイドルは、楽しいから始めたんじゃないの?全部、私のため?
「じゃあ、どうして?何で…今、私を傷つけてるの?」
姫はハッとしたような仕草をした後、静かにうつむいた。
「日葵ちゃんは、私と一緒に居たいの?ずっと」
姫の考えていることが分からない。どう思ってそんなことを言っているのか。
「当たり前だよ。ずっと居たい。姫とずっと一緒に…」
「本当に?大人になっても?ずっと?」
何を言っているのか。姫の意図が読めない。
「何をしたいの。どうして姫はそんなことを言うの?」
「出ていく」
「え?」
「この家から出ていく!」
姫はそう言うと、今年で二回目の家出決行~♪をした。
「ちょっと待って。」
私は姫に冷たく言った。「待って!ごめん!」とか言うのは、もう、飽きた。
そんなの…自分勝手だよ。気に入らないことがあるとすぐ「出ていく」って。
私の愚かな性格を利用してるだけだよ。「私なんか」って思っちゃう私の性格を。
姫は私のことを愛してくれてるし、私もそう。だから、こんなことやめようよ。
言いたかった。はっきりと言いたかった。目の前でしっかり伝えたかった。でも…
「伝えること」って、こんなに難しいことだったっけ。私って、そんなに弱かったの?
ごちゃごちゃ混ざってくるいろいろな想いが邪魔をしてくる。言いたいことが言えない。
そんなに苦しかったっけ、私。そんなに可哀そうだったのかな。
「何?ちょっと待ってって、何?私に謝るのはもうやめて…」
「謝らないよ」
私を傷つけたくないのは本当だろう。でも、怒っているのは嘘だ。
はっきり言えた。姫が思うことなんか、私が一番知ってるもん。
「自分勝手だよ、それ。ダメだよ。私も、辛いんだよ。毎回毎回利用されるのは」
「利用してねぇ~よ。バッカじゃないの?あ、そっか。馬鹿か。じゃあね」
私の言ったことを無視して、姫は家から出て行った。
「泣かない」と決めたはずなのに、泣いてしまった。