「すごかったね、翔の家」
姫莉が大きくうなずいた。豪華だったな。
「私たちの家とは違いすぎたよ~!」
人気アイドルの姫が言っているんだから、翔の家って本当にすごい。
「ね~ね~」
姫莉が顔を覗き込んでくる。
「何?どうしたの?」
また、変な事企んでるのかな、と思ったら予想外だった。
「恋バナ、しよっ!」
「こ、恋バナ…。えっ、今さら⁉」
動揺している私の横で、姫はニヤニヤ笑っている。
「蓮くんのこと。忘れてないよねっ~!」
「う、うん。まぁ、はい。だけど」
姫はいきなり冷たい顔になると、シュンとしたような悲しい顔になった。
「えっ!姫、どうしたの?」
「自信、持ってって言ったよね。自分の気持ちに。忘れちゃった?」
「あっ」
私のことをからかいたいだけじゃなかった。ちゃんと、勇気づけてくれた。
姫の気持ちが痛いほど胸に染みわたる。頑張ってくれたのに。信じてくれたのに。
私、また前に戻ってる。
「私はアイドル。でも、自由なんだよ!ねぇ、秘密、一個言ってあげる。私、恋してるんだ~」
「コイ…」
「そう!誰かを愛してるってこと。でも、私、間違ったことしてるとは思わない」
「えっ、なんで?」
勢いで言ってしまったけど、後悔する。姫にそんなこと言ってはいけない。
アイドルが恋愛とか、誰かと付き合うとか、してはいけないっていう決まりはない。
でも、ファンの人の気持ちはどうなのかな。
「私、相沢姫莉だから!日葵ちゃんと同じ、中学三年生の女の子!だから、いいの」
姫って、強い子なんだな。改めて姫の強さに感動する。誰かに殴られたみたいに全身が熱くなった。
妹に、負けてる。初めて、悔しいって思った。自分の事、はっきり「自分」って言える姫って。
すごく、かっこいいな。妹って、カッコいいな。
「強いね」
「当たり前だよ~!アイドルやってると、こんくらい当たり前~!」
まっすぐで、強くて、素直で、優しい姫を、もっと好きになった。
たった一人の「家族」を、もっともっと好きになった。
「姫、ありがとう」