雪はいつの間にか止んでいた。
かと言っても、晴れるわけでもなく中途半端な天気だ。
マンションの階段に雪の結晶が散らばっている。転びそうになった。
「あぶなっ」
思わず、声が出てしまった。雪に注意しながら階段を下りる。
私たちが住んでいるマンションは、六階まであるのにエレベーターがない。
「格安マンション」っていう感じかな。確かに、値段はそこそこ安かったし。
一階まで下りた。少し疲れた。でも、帰りはもっと疲れる。
私たちは五階に住んでいる。不動産屋さんに「一階と五階が空いてます」と言われた。
私は「値段も安いし、便利なので一階」と言ったが、姫は「絶対に五階です!」と言った。
トップアイドルだから、プライバシーを確保したいらしい。
でも、値段も二万ぐらいしか違わなかったから、そっちでもいいや、と思ってしまった。
結局は、空いていた一階の部屋には大学生が住んでいる。
大通りに出た。外国人観光客や、女子高生、サラリーマンもいる。
「セールで~す!夕方タイムセールです‼」
ドン・キホーテから、店員さんの元気な声が聞こえた。ほとんどダッシュで向かう。
会計を済まして、家に帰ろうとすると、なんだか人だかりができていた。
気になって背伸びをしてみてみると、なんと、そこにいるのは姫だった。
ンンン?隣に男の人が…
え、あれ…蓮じゃない⁉
「お前ぇ、ふざけんじゃね~よ」
しかも、なんか怒ってるかも⁉
「蓮さん~?日葵ちゃんを傷つけるなら許さないよ~!」
姫理も怒ってる⁉っていうか、私の名前~⁉
今、思い切り「日葵ちゃん」って言ったよね⁉私のこと⁉
「日葵ちゃんって、誰?芸能人?」
「知らん」
うぐっ。キツイ。日葵ちゃん、ここにいるんだけど…
思い切り「知らん」って言われたらキツイ!悪気はないみたいだけど、すごいキツイ!
「ちょっ、姫!れ、蓮も!な、ななな何してるの!」
勇気を出して声をかけた。二人はすぐ私に気づく。
「日葵!」
「日葵ちゃん!」
「帰るよ!人を巻き込まないでって、何回も言ったよね⁉そういうのはお忍びでやって‼」
二人の手を引いて、家に帰った。蓮の手を触ったのは久しぶりな気がする。
「え、この子が日葵ちゃん?」
「誰?何者?姫莉と一緒に住んでんの?ヤバッ!」
「ってか、『そういうのはお忍びでやって』って言ったよね⁉」
「姫莉と蓮って付き合ってんの~⁉⁉」
やっちゃった…な