「こんにちは。担任の長田 美智子と申します。一年間よろしくお願いいたします。」
美智子先生は、そう言うと、にっこり笑った。
「ねぇ、みんな。今、先生の話の途中だけど…ちゃんと聞いてくれる?」
クラスはちっとも静かにならない。先生の目が、だんだん「死んで」ゆく。
そろそろ…げ、限界かな?
「黙れ。」
なんだかスローモーションのように流れてゆく光景。そして、恐ろしい先生。
私たちは、驚きと恐怖に満ち溢れたー。

「あの先生こわっ!」
下校中、愛花がいつものように先生の愚痴を言う。
「だって、にこやかだし、優しい先生かなぁ~って思ってたら、急に『黙れ』って言うんだもん。」
「あ、アハハ…」
苦笑いを返すしかない私。みっともないな。
「日葵も、ストレス解放した方がいいよ。ほら、例えば『推しを作る』とか。」
「う、うん。そうだよね…」
芸能人に興味はない。ただ…
「あ、推しで思いついたんだけど、昨日のドラマ見た?姫莉と、蓮のやつ。あれ、最強!」
「えっと…、『総長様に独占されてますっ♡』ってやつ?」
「え、日葵。知ってるの?」
私はゆっくりうなずいた。
「私、同担様大歓迎なんだけど…もしかして、日葵。蓮と姫莉の、どっちかのこと好きなの?」
好きでした。それはもう、大好きでした。
「ねぇ、今からちょっとうるさくなるけど…いい?」
何が始まるのっ?愛花。
「まずは、蓮のことから言うねっ?あだ名は『レンレン』で、本名は『西畑 蓮』。二十九歳。身長184㎝。イケメン‼」
「えっと。そ、そうなんだね。」
「次は姫莉ねっ?あだ名は『姫』で、本名は、『相沢 姫莉』。中学三年生。身長158㎝。可愛い‼」
「う、うん。そうだね。」
愛花の熱量がすごい。それほど好きなんだね。
「推し最強っ‼」
愛花の声が、スクランブル交差点に響き渡る。
「日葵も、『推し』いるんでしょ?」
そうたずねてくる愛花の声は、とてもかわいらしかった。