「日葵、話がある」
昼休みにあんなことがあって、少しだけ気まずかったけど、案外、蓮さんは話しかけてくれた。
学校の屋上はシーンとしていた。夕焼けが切ない。
「それで、話って…」
「お前、相沢姫莉の妹だろ」
「…っ!」
なんでバレたんだろう。蓮さんは、姫莉に会ったことがあるのかな。
「まぁ、日葵は秘密にしてたんだろ。俺はぜ~んぶ知ってるけど」
「なんで、知ってるんですか」
「俺の兄ちゃん、『蒼空』っていう芸名で活動してるアイドルなんだけど、知ってる?」
え、、、、、、、私の推しの蒼空くんのぉぉぉ~~!
なんとなく顔が似てるな、とか思ってたけど、兄弟だったんだ!
「蒼空くんの弟さんだったんだ!びっくり。」
「お前、スマホのロック画面、上半分が姫莉で、もう半分が蒼空だったよな」
「そうなの。姫莉の一番かわいい写真と、蒼空くんの一番かっこいい写真を合成したんだ。」
「へぇ。最近は合成でそんなもんができるんだ」
いけない!話が脱線しちゃったよ。
「ーなんであの時、蓮さんは『俺に似てる』って言ったの?」
「惨めだから。」
「え?」
「いつも兄ちゃんと比べられて育ったから。『お前はできない子』ってずっと言われてた」
似てる…かもしれない。私も言われたから。
「姫莉はかわいいねぇ」「あれ、日葵もいたの」「似てないな」「お前は目立つな」
親戚の人や友達に会うたびに言われた。だから、ずっと家にいたかった。
お出かけなんかしたくなかった。どうせ、同じことをずっと言われるだけだし。
姫莉は絶対に私の悪口なんか言わなかった。妹なのにかばってくれた。
「私が姫を守る!」って決めても、姫に守られてばかりだった。
いつも、すごく惨めだった。私たち、似ている。
蓮さんは完璧で何でもできちゃう御曹司だと思っていた。でも、違った。
私は勘違いしていた。蓮さんも惨めだったんだ。
どこに居ても比べられて、何をしても批判されて、苦しかったんだ。
蓮さんにとっての「居場所」がなかったんだ。
すごく申し訳なくなった。私、本当に最低だ。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「えっ、なんで日葵が泣くんだよ」
「私、何にも分かってなかった。」
「分かる方がすごいと思うよ」
「私たち、本当に似てる。」
私は、手で涙をぬぐいながら言った。蓮さんが、ちょっとだけ笑った。
澄んでいる青い瞳が、ギラギラ輝いていた。全然、怖くなんかなかった。