その日から、蓮さんはなんとなく私に親しくしてくれた。
同じクラスの子にそっけない態度だったのに、私には挨拶もしてくれる。
反応には困るけど、なんとなく嬉しかった。
でも、みんなからの視線が耐えられない。
なんで、こんな子が。っていう視線。とても、冷たい目で見られた。
ある日の昼休み、私は普段あまり話さないクラスメイトに呼び出された。
「あの…なんですか」
おそるおそるたずねると、その人は私をにらんで、こう言った。
「最近、蓮と仲良いよね。何したの」
「え、何したのって、何もしてません」
「あんなに冷たい蓮がぶりっ子のあんたに優しくするわけないじゃん」
「で、でも」
「それ、その態度。その態度がムカつくの。いつもヘラヘラしててムカつく」
「…ごめんなさい」
「アイドルの真似でもしてるの?アンタ、相沢姫莉になりたいの」
急に姫のことをとりあげられて、ギクリとした。もしかして、バレたかな…
「相沢姫莉さんって、誰ですか…?」
知らないふりをした。そしたら、また馬鹿扱いされるかな。
「姫莉も知らないの。馬鹿だね。あの子、可愛くないし、ぶりっ子だから私も嫌い。アンタと同類の人間。」
私の悪口を言うならなんだっていい。でも、姫のことをいじめる奴は許さない。
「姫莉は私と違います。はっきり言えます」
「何なのアンタ。私、蓮の話してるんだけど。脱線しないでくれる?」
姫莉のことを言い出したのはそっちじゃない、と言いたかった。
でも言えない。勇気がない。
「私は、本当に何もしてないです…」
泣きそうになった。惨めだけど何もできない。
かといって、蓮さんのせいにもできない。私が全部悪い。
「私、蓮の将来の結婚相手なの。いわいる『許嫁』ってやつね」
そうだった。この人、学校でも有名なお金持ちで、美人番長だった。
「だから、アンタみたいな汚いぶりっ子が蓮の近くにいるだけでもイラつくの。分かる?」
はっきり言われて、確かにそうだと思ってしまった。私、汚いぶりっ子だったかも。
「美衣沙、言いすぎだ。」
「蓮…。あなた、この子のことが好きなの」
「なんとなく似てると思っただけだ。好きかどうかは分からない」
似てる?蓮さんと私のどこが似てるんだろう。
イケメンで、何でもできて、幸せな蓮さんと私のどこが似てるの?
馬鹿にしてるのかな。こんな私を。
「蓮、何言ってるの。この子のどこが蓮に似てるの!ねぇ、どこが!」
「お前の汚い心より、日葵の綺麗な心の方が俺にふさわしいと思ってな。」
え、急に天然。っていうか、偉そうなんだけど。
絶対、自分がイケメンだと知ってるタイプの人だ。
「ふさわしいって、どういうこと?」
勇気をふりしぼって聞いてみた。
「後で言う」
蓮さんはそっけなく言うと、部屋から出て行った。
美衣沙さんの切ない顔が、心に残った。