(どうしてお姉様がここに?)


「遅かったな」

「申し訳ございません。着物を汚してしまい、着替えておりました」


先程より多少綺麗な着物を身にまとっていた千鶴。泥水で汚れた着物で流石に大広間に来れば父・利政に叱責されてしまう。

それは家族だろうと関係ない。玲華も幼い頃は勉学や作法を怠れば容赦なく父から叱責されてきた。その怖さを身をもって知っている。


緊張感が漂う中、ようやく利政が口を開く。


「まぁ、良い。単刀直入に申す。千鶴、お前は近々嫁いでもらうことになった」

「え…?」


予想もしていない父の言葉に驚きを隠せない一同。表に出ることを許されてこなかった一族の汚点である千鶴が次期当主である玲華より先に縁談の話が舞い込んできたのか。

利政はそんなこと気にする様子なく話を続ける。


「縁談の相手は久世 凪一(くぜ なぎひと)。久世家の当主で、異能者の家系として実に優秀な血筋だ」


(久世家ってあの、久世家ですの!?)


一条家の汚点とはいえ、嫁ぎ先とある家は一流なもので無ければならない。利政はそう考えていた。


「お前は勉学はそこそこ出来る。異能が無くても十分やっていけるだろう」

「お父様、お気遣いありがとうございます。一条家の名を汚さぬように精進してまいります」

「はぁ、もう顔など見ることがなくなって清々する。屋敷を出たらもう二度と踏み入ることか許さん」

「はい」