「千鶴様は決めたのですか?これからどうするか」


使用人頭は千鶴がまだ迷っていることを知っていた。このまま屋敷に残るか、一人で生きていくか。


「まだ決めていません。あ、一人で旅をするのも楽しそう。屋敷で使用人していた頃は自由などありませんでしたので興味があります」

「おやおや。それだと一生独り身ですよ?」

「良いのです。それに、一人は慣れています」


ずっと孤独だった千鶴はそれがいつの頃か当たり前となっていた。自由を手にし、これからは自分だけの幸せを見つけるために生きていこう。

そう考えていると、屋敷の戸の鐘がなる。千鶴は早足で玄関へと向かう。


「はい。どちら様でしょうか?」


戸を開けるとそこには久しく凪一が一条家の屋敷にでむく。

「久世様。お久しぶりです」

「久しいな。今日で最後だと聞いてな。迎えに来た」

「どなたか待っていらっしゃるのですか?では私が呼んで参ります」


千鶴は縁側にいる誰かを呼びに行こうとした。その背中を凪一が止め、後ろから千鶴を抱きしめる。


「く、久世様!?」

「分からぬか?俺は君を迎えに来たんだ千鶴。君を婚約者として久世家に迎えるために」