「凪一様、お忘れですか?私に触れてたこと」

「触れる?…まさか!」


気づいて身体を動かそうとしたが、既に遅かった。玲華は凪一が手首を拘束した瞬間に異能を発動させ、自由を奪った。


「くっ…。異能か」

「そう。私の異能は触れたモノの動きを制限する。物であろうと人間であろうと」


人差し指で凪一の顔のラインをなぞる玲華。鼻先が付きそうな距離に為す術ない。


「お美しい顔。お姉様には勿体ないわ。ねぇ、凪一様。正式に私の婚約者となりませんか?」

「はぁ?」

「私を異能者として頂点に立たせてください。凪一様がいつも見ている景色を私も見てみたいのですわ」

「断ると言ったら?」

玲華はニヤリと笑みを浮かべ、寝巻きの袖から小瓶を出す。

「その時はこの毒を、その口に押し込むまで。やってのは私はなく、一条千鶴。久世凪一の婚約者として名を置いているのはお姉様ですもの。私は屋敷にいた。それを証明してくださるのはお父様たち。部屋から出ないのを心配して声をかけて、返事があったと言ってくだされば証拠は完璧。一条千鶴を罪人にし、完全に一条家から追い出すことが出来ましてよ」