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『私は一条千鶴と申します』

血色の悪い肌、黒ずんだ目元、傷んだ髪、生傷が絶えない痛々しい身体。

着物も名家の娘とは思えないほど古びていて、汚れと破れた跡が目立っていた。

凪一の目に映る千鶴は生きる力を見失っているように見えた。しかし、自分を真っ直ぐと見つめるその目からは、何かを成し遂げたい強い意志が伝わってきた。


(あのような目をする女は初めてだ)


これまで凪一に近づく女性は皆、地位や名誉のために甘ったるい声色と自分の外見にしか興味のない者ばかり。

異能者としてその頂点に立つ久世様との縁談は未来永劫を約束され、名だけで組織から厚い信頼を得ることができる。

異能者というだけで何故、世間はその存在を重要視するのか。異能など特別でも何でもない。凪一の中で異能は邪魔なものでしかなかった。

力がある。力の無いものはその力を求めて金を注ぎ込んで土下座までする。

欲にまみれた穢れた心を持ったものたちが群がる姿には吐き気がする。


(自分たちの力がないからと、都合のよい時だけいい顔をして異能を利用しようとしてくるなど、どこまでも愚かな連中だ)