ーー屋敷には既に凪一が帰宅していた。自室で作業をしていて玲華が帰宅しても迎えることは一切しない。


(婚約者が帰ってきたというのに、言葉のひとつもかけられないの?)


そして自ら凪一の部屋へと向かう玲華。部屋の襖の前に正座をして声をかける。


「凪一様、千鶴です。今、帰りました」

「何処へ行っていた?」

「少々実家に戻っていました。妹の様子を見に」

「そうか。あまり遅くなるな」


(それだけ?遅くなると心配するのなら、顔くらい見せてくれてもいいのに…)


「どうした?話が済んだのなら、部屋に戻れ」


冷たい態度をされ、相手にされないのが悔しい玲華は、一向にその場を離れようとしない。凪一の気を引こうと必死に言葉をかける。


「…実は妹にもう来るなと言われましたの」

「……」

「私はあの子が心配で様子を見に来たと言うのに、冷たく追い払え、挙句の果てに手をかけようとしてきたのです」

「…それは、さぞ辛かっただろうな」


ようやく自分に同情してたと思った玲華は更に話を拍車をかける。


「はい…。ですので、今晩はそばで寄り添っていただけませんか?」

「何故だ?」

「何故って…将来の妻が実の妹に虐げられているのを見過ごすつもりですか?凪一様がこんなにも薄情な殿方だとは思いませんでした…」